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睡眠不足で瞼が重く、うつらうつらとしていたはずが、いつの間にか寝入っていた。 二日酔いによる体調不良もあり、酔い止めを飲んで、車に乗り込むとすぐに寝てしまったルルーシュは、車が揺れた際にスザクの方へと体重が移り、肩に寄り掛かるような形になった。起きるのでは?と思ったが、ぐっすりとそのまま寝続けていて、ホッとしつつもどうしよう?と考えたところまでは覚えて言るのだが・・・いつの間にかスザク自身も眠ってしまったようだった。そのうえ肩に乗っていたルルーシュの頭に自らの頭を寄りかからせ、その上腕を腰にまわしていた。 目覚めとともに視界に映った光景に、まだ夢の中にいるのか!?と軽くパニックを起こしたが、幸いルルーシュは深く眠っていたし、皇族専用の車は、後部座席の様子は運転席から見えないし聞こえない作りになっている。 誰にも見られずにすみ、ほっと息をついた。 こんな姿を見られたら、何を言われるか解らない。 皇族に対して無礼を働いたと、二度とルルーシュの護衛には付けなくなってしまう。 懐中時計を取り出し時間を確認し、窓の外を伺う。 どうやら峠を走っているらしく、自然豊かな景色が視界に飛び込んできた。この綺麗な景色を是非ルルーシュにも見てほしかったが、起こすわけにもいかない。 予定通りならあと4時間ほどでペンドラゴンだ。 念のため携帯電話の履歴を調べるが、ジノからの連絡も入っていなかった。 ふと、操作する指が止まる。 昨日、魔女から貰った写真を思い出したのだ。 なぜあんな写真を・・・そこまで考えて、そうだ、携帯でも写真が撮れるじゃないかと思い至った。携帯電話は基本的に業務連絡にしか使わないため、そういう機能の存在は忘れがちだった。アーニャがよく撮っているのを見ているので、操作はわかる。 見つかったら、大変なことになるだろう。 そうは思っていても誘惑には勝てず、スザクはこっそりと写真モードへ切り替え、ルルーシュの寝顔を撮影した。シャッター音を消し忘れていたため、鳴った音にびっくりしたが、幸いルルーシュは目を覚まさない。 ほっと安堵の息をついて写真を確認すると、あどけない表情で無防備に眠るルルーシュが綺麗に撮れていた。それを昨日の写真と共にフォルダの奥に隠す。ルルーシュが起きませんように。そう思いながら不慣れな作業をしていた時、携帯が鳴り響いた。 「わ!?」 後ろめたい行為をしている人間は、こういう突発的な事に弱い。 普段であれば平然と対処できることなのに、あまりにもびっくりして声を出してしまった。それだけではなく、体をびくりと震わせてしまった事で、眠っていたルルーシュを起こしてしまった。 「・・・枢木、さっさと出ろ」 スザクの肩を借りていた事は気にもしていないのか、寝ぼけ眼をこするながらルルーシュは言った。 「も、申し訳ありません!」 必要以上に大きな声で謝るので、ルルーシュは眉を寄せた。 「いいからさっさと出ろ。緊急の呼び出し音だろう」 そうだったと、スザクは慌てて電話に出た。 通常の連絡関係はマナーモードになっており、バイブだけで知らせてくるが、緊急時の連絡はこのように音が鳴るようにセットされているのだ。 「はい、枢木です」 いままでの動揺は一瞬で消し去り、スザクは電話に出た。 相手はジノ。 『スザク、どうした。遅いじゃないか』 「すまないジノ、何かあったのか?」 そこまで言った時、ルルーシュは自分も内容を聞こうと、スザクの携帯に耳を当ててきたた。今までにない行動。そして至近距離にあるルルーシュの顔にどきりとしたが、すぐに電話向こうの声で引き戻された。 『私は何も無いのに緊急コールをするとでも思っているのか?とても嬉しい知らせを聞かせたくてね。スザク、敵のお出ましだ』 「テロリストか?」 『まだ確認は取れていないが、まず間違いないだろう』 「取れていない?」 『流石魔女殿、と言った所だ。この先に嫌な気配があるといいだしてな、衛生通信で確認したところ、この先で待ち伏せをされている』 魔女C.C.は酒臭い男と同じ場所は嫌だと、先頭車両に乗りこんでいた。 それが功を奏したという事か。 「引き返すなら早い方がいい」 『残念ながら退路は断たれているな』 この峠で挟み打ちだ。 後ろを見れば、何台かの車が連なっているのが見え、こちらに違和感を与えない程度の距離を確保しながらついてきている。 「ここを通る事を知られていた訳か」 日程も知らせず、普段は通らない道を選んだのだが。 『内通者を疑うのはあとだ。我々はこのまま進み、露払いをしようと思うが?』 「先行したら、こちらが気付いていると知られるんじゃないのか?」 突然聞こえた声は、ルルーシュのものだった。 『ルルーシュ殿下!?聞いておられたのですか』 「なんだ、俺が聞いて困る話なのか?」 『いえ、そのような事は』 「お前たちが先行すれば、後続部隊が動きだすだけだ」 そうなれば、スザク以外の護衛が無い状態で後続部隊を相手にする事になる。 『・・・確かにその通りです』 「だが、このまま進めば挟み打ちになる。ならば、先に後続部隊を片付けるまで」 「では、引き返して後続部隊を」 「いや、引き返せばすぐに前方で待機している者たちが動き出す」 「ならば、どうすれば」 「エンジントラブルを装い、この車を停車させろ」 「この車を?」 「内通者がいる可能性を考え、護衛兵にもエンジントラブルだと伝えろ。こちらが止まったからと言って、後続部隊が止まるわけにいかないだろう?必ずここまでやってくる」 視界に映らない距離ならともかく、後続部隊は遠いとはいえ視界に入る距離にいる。こちらに合わせて停止すれば、警戒させるだけだ。だから、後続部隊は動くしかない。前衛部隊もまずは様子見をするはずだ。結果的に挟み打ちを諦めるだろうが、前衛部隊がここに来るまでには十分すぎる時間ができる。 そう言うと、ルルーシュは後部座席にあるマイクのスイッチを指さした。 ルルーシュの指示よりも、ラウンズとしての指示の方がこの場合は有効だろう。 『「イエス・ユアハイネス」』 運転手は突然の事に驚きはしたが、ラウンズの指示という事は何かあったのだろうと判断し、いささか乱暴な形でブレーキを踏み、車を緊急停止させた。エンジンの調子がおかしいと、すぐさま連絡を入れ、車を降りるとボンネットを開いた。 なかなかの演技だ。 後続の車両も続いて停止、先行していた車両もすぐに戻ってきた。 スザクはすぐに車外に出、辺りを伺う。 ジノと警備兵も外に出て、緊急時に備えた。 先頭車両にいたC.C.は、当たり前のような顔でルルーシュの車両に移る。 車を修理するふりを運転手が続けていると、後方から何台もの車両がやってきた。トラックが3台、普通自動車が4台。確認した通りの台数で、恐らくテロリストだろう。 帝国の紋章を背負ったナイトオブセブンとナイトオブスリーが、生身のまま車線上に立ちはだかった。 その姿だけで、帝国の騎士だと誰もが解る。 普通であれば緊急事態だと気付き、車を止め、引き返すか車両が動くまで待つかを選択するだろう。 だが、車は止まる気配なく、反対にスピードをあげてきた。 「私たちを轢き殺すつもりかな?」 危機感など感じられない口調でジノは言った。 「みたいだね。まあ、それが手っ取り早いだろうし」 生身の人間相手なのだから。 皇族を乗せた車も、トラックが猛スピードで衝突すれば唯では済まない。 「私たちも、舐められたものだね」 「舐めてくれた方が、早く片付いていいじゃないか」 そう言いながら、二人は腰の剣を引きぬいた。 銃火器が発達したこの時代に、剣での戦闘。 しかも車相手に、身の程知らずが。 騎士道だけで勝てるほど、世の中は甘くない。 時代錯誤の騎士たちをあざ笑うかのように、車は突進してきた。 |